Best albums of 2020

 ハレもケもない1年だった。祭という祭が地上から失われ、かといって心穏やかに過ごすこともできない。そんな1年の中で聞いた音楽になにか共通点を見出すとすれば、そのテーマは「平熱」ということになろうか。リリックやサウンドがどんな内容のものであれ、作家が自然体に出したものがそのまま反映されていること。2020年特有の時流や時勢ではない、それ以前に持ち合わせた趣向や問題意識が捉えられているものに心を動かされた1年だったように思う。今回も例年同様トップ30を以下に書き連ねていくが、今年の前半、しかもコロナ禍以前にリリースされた作品が上位に多く名を連ねているのもその証左かもしれない。
 あいも変わらず節操のない、まとまりがないランキングになった。上澄みを掬い続けている自分らしいところは変わらない。それではよいお年を。来年はもっと楽しいと思いたい。きっともっと苦しいから。

30.Victoria Monét『JAGUAR』

 Fifth HarmonyにChloe x Halle、そして何よりAriana Grande。もちろん、Victoria Monétは自身の作品もいくつかリリースしている。しかし楽曲提供の仕事が多いために、名前を見かけるのは主に縁の下の力持ちとしてだ。彼女が本格的に自身の作品へと集中したのは”7 rings”がリリースされた後のこと。他者のために献身する時期を終えて完成した本プロジェクト(Monétは「アルバム」という呼び方を避けている)は、極めて真っ当な自己愛と柔らかな音色に溢れていた。〈私は本能のままに生きている〉という宣言に温かなブラスが絡むタイトル曲が静かに生を祝福する。ベッドの軋む音をサンプリングし〈ビーチを舐めて/海岸をファックして/悲鳴を上げさせてみて/ぜんぶ委ねて〉とパートナーに指示する”Dive”が性をこともなげに肯定する。まったくもって気負いを感じさせない伸びやかさで、自身が自身であることを誇る。黒人女性であるMonétのアイデンティティからすれば、そのなんと難しいことか。派手でも煌びやかでもない、だけど美しい瞬間を切り取ったこのレコードは、派手でも煌びやかでもないからこそ価値がある。

29. THE 1975『Notes On A Conditional Form』

 『仮定法に関する注釈』。うむ。本を読むうえでは、注釈ってやつは正直言ってノイズだ。内容の理解には役立つが、どのタイミングで読んでも本文の持つ味わいや勢いが削がれてしまう。本作もGreta Thunbergのスピーチで始まったと思えばMarilyn Manson顔負けのパンクチューンに飛んだり、かと思えばガラージもカントリーも扱っていて、全編通して騒々しい。歌詞も楽曲同様まとまりがなく、”People”で〈クソみたいな世界でベストを尽くすしかない〉とぼやきながら”Guys”では人生最高の瞬間をいくつも切り取っていたりする。でもそれこそが、趣味趣向から価値観、セクシュアリティまでもが目まぐるしく変わり、矛盾を常に抱きかかえている存在こそが、いち人間なんじゃないのか。オンライン上の人間関係において私たちは、自分以外の他者を「あいつはこういう奴なんじゃなかろうか」と『仮定法』で決めつけてしまいがちだ。しかし、SNSで見せる姿が自分の全てなワケがない。人間は多面体で、歪なパッチワークなのだ。
 本作そのものは、Matthew Healy自身のドキュメントに過ぎない。しかしそうであるがゆえに、彼のアカウントへ何百回、何千回、何万回と向けられた『仮定形』に対する異議申し立て(それは往々にしてノイジィだ)=『注釈』としても成立している。

28.EOB『Earth』

27.LINION『Leisurely』

26.Jonsi『Shiver』

25.さとうもか『GLINTS』

24.Lucky Kilimanjaro『!magination』

23.dvsn『A Muse In Her Feelings』

22.Diet Cig『Do You Wonder About Me?』

21.Into It. Over It.『Figure』

20.the telephones『NEW!』

19.緑黄色社会『SINGALONG』

18.香取慎吾『20200101』

17.Nothing But Thieves『Moral Panic』

16.米津玄師『STRAY SHEEP』

15.Lil Uzi Vert『Eternal Atake』

14.Pink Siifu『Negro』

13.あっこゴリラ『ミラクルミー E.P.』

12.Bibio『Sleep On The Wing』

11.Moment Joon『Passport & Garcon』

10.Ty Dolla $ign『Featuring Ty Dolla $ign』

9.Jeff Parker『Suite for Max Brown』

8.竹内アンナ『MATOUSIC』

7.Kylie Minogue『DISCO』

6.JP THE WAVY『LIFE IS WAVY』

5.DJ CHARI & DJ TATSUKI『GOLDEN ROUTE』

4.Wienners『BURST POP ISLAND』

3.RINA SAWAYAMA『SAWAYAMA』

2.Reol『金字塔』

1.Dua Lipa『Future Nostalgia』

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